六章

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「恋愛感情が何で不純なんだよ!  それはお前にとって本物の愛なんだろ!?」 「本物の愛が何なんですか? 本物の愛なら許される感情ですか?  じゃあ端的に聞きますけど、あなたは男の俺に欲情できるんですか!?」  真鳥は殆ど叫ぶように言葉を連ねながら、どこかで冷静に、駄目だなと、思った。ここまで来たら、もう一度友人関係を築くことも出来そうもない。こんな結末を望んでいたわけではなった。稚拙な恋をきちんと諦めるつもりでいたのだ。  恋愛でなくても構わなかった。友永の傍にいられさえすれば良かったのだ。  だが友永は怯まずに口を開いた。 「だったらお前が俺をその気にさせて見せろよ!」  友永の言い放った一言が、真鳥をその場に釘付けにした。 「ストレートの俺が男のお前を抱けないっていうんなら和巳、お前のそのご立派な演技力で俺を誘惑して見せろよ!!」  真鳥は瞠目する。  ――あんたなら彼を誘惑するくらい簡単でしょ?  そうだ、そんなのは簡単なことだ。ここにはフィクションのルールという縛りさえない。  だからやらなかった。 「出来るわけ……無いでしょう」  真鳥の声が震える。  麦子と同じやり方で人の気持ちを弄びたくなかった。     
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