六章

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 重なった唇の間で友永の舌先が真鳥の閉じたままの唇の合わせ目にそっと押し込まれ、真鳥は従順に口を少し開いて友永を受け容れた。友永の舌が真鳥の舌を柔らかく絡めとり、味わうように甘いキスを繰り返す……真鳥の意識は友永の呼吸の中にゆっくりと蕩かされていく。何もかも取り零したように身体に力が入らなくなり、膝が抜けかける。友永は崩れそうになる真鳥をきつく抱き締めて支え、耳元に唇を寄せて囁いた。 「俺も、愛してる」  真鳥は熱を持った顔を隠すように友永の肩口に顔を埋め、友永の背に拘束するように腕を回した。友永とは何度もハグをしたのに、こんなに幸福感が隙間なく詰め込まれた感覚は初めてだった。  このまま、ずっと……  だがその時、軽いノックの音が響き、真鳥の意識は一瞬で現実に引き戻される。 「和巳さあん、入りますよお?」  間延びした山名の声が聞こえてドアが開くまで直ぐだった。  真鳥は慌てて友永から離れようとしたが、友永は笑みを湛えたまま真鳥を抱く腕を緩めようとしない。  そのまま、ドアを開けた山名と友永の肩越しに目が合った。  山名は両手に持っていた有名菓子店の紙袋を躊躇いもなくどさっと床に落とし、空いた両手で顔を覆った。 「あの、お差し入れです……けど……  お邪魔でした?」  しかし山名の指の隙間はばっちり開いていて、そこから好奇心の塊のようなくりくりした丸い目がしっかり覗いている。 「や、山名さん、違うんです、これは……」  慌てて取り繕おうとする真鳥を友永が制した。 「和巳が、」  真鳥と対照的に落ち着き払った友永は、首だけ捻って山名に目をやった。 「映画の話してたら、感極まっちゃってさ。     
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