六章

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 腰が抜けたっていうから、俺が抱き起したところだよ」 「あっ、そう―……なんですねッ  私てっきり……」  しかし山名は「てっきり」のあとを意味ありげな視線で誤魔化した。それに顔をわざとらしく覆った両手もそのままだ。 「和巳、立てるか? 椅子に座る?」 「あ、いえ、大丈夫です……」  友永は漸く両腕の拘束から真鳥を解放した。真鳥は返事をしながら友永をちょっと睨んだ。即座に離れていれば苦しい言い訳も必要なかったはずだ。  だが友永は真鳥にだけ見えるように幸せに笑って見せるだけだ。真鳥も毒気を抜かれてしまう。  真鳥は友永のジャケットに差さっていた生花が少し潰れてしまっているのに気づいた。 「友永さん、薔薇が……」 「ああ……」  友永も気付くと、机の上に連なったまま放置されていた紙コップを一つ取り、備え付けの洗面台で水を汲んで、花を活けた。 「枯れると寂しいからな」 「代わりのお花大丈夫ですか? そこの花束のお花使っても大丈夫ですよ!!」」  山名の無責任な提案を友永は苦笑して断る。 「いくらか予備があるから。後でマネージャに持って来させるよ」  結局山名は森矢のところに戻る気はなかったらしく、会場の連絡係が真鳥と友永を呼びに来るまで無駄話をして二人を楽しませた。     
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