六章

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「友永さん、元気になりました?」  スタッフに連れられて会場へ向かう途中、真鳥は小声で友永に聞いた。 「元気? なんで?」 「とてもお疲れみたいだったので。  以前ハグには疲労回復効果があるって、言ってたでしょう?」 「ああ……」  友永は喉の奥で控えめに笑う。 「なったなった。元気になり過ぎてちょっとやばかったな」  友永は前を見たまま素知らぬ顔で、隣を歩く真鳥の手を手探りで握った。 「友永さんっ……」  思わず大声をあげそうになった真鳥を、友永は人差し指を唇に当てて制止する。  真鳥が口を噤んだのをいいことに、友永は指を全部真鳥の指に絡めて握り直した。 「友永さん」  真鳥は今度は抵抗を言葉には表さず睨んだが、友永は上機嫌で全く意に介さない、 「前の舞台挨拶の時は肩組んだし、今日はこれでいこう」  真鳥は溜息を吐いた。もうどうなっても知らないことにする。  試写室の前に到着する。神田と浜松も先に来ている。もう、すぐに出番だ。  真鳥は友永が握った手に少し力を込めた。 「友永さん、あとで……」  会場スタッフが重そうな試写室の扉に手を掛けた。  真鳥は友永を見る。 「俺の秘密を聞いてくれますか」  友永は穏やかに微笑んだ。 「勿論」  試写室の扉が開く。
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