一章

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一章

一  各務が真鳥に先立って診察室の扉を開くと、待合室のソファに掛けていた派手な雰囲気の男が立ち上がった。 「よう、和巳」 「慧君、君の予約を受け付けた覚えは無いですよ」  真鳥が口を開くより先に各務がうんざりした顔で言った。  芝居がかった気障な仕草で顔に掛かっていたブランド物のサングラスを外すと、友永慧は、女性なら誰もが振り返るような甘いマスクを惜しげなく晒して笑みを浮かべて見せた。  仕立ての良い白いシャツの上に柄のスカーフを洒脱に巻き、淡い色のクロップド丈パンツに足元は素足に革のドレスシューズという流行のスタイルで全身隙無く着飾っていて、リゾート地で休暇中の海外セレブリティと言った風である。しかもそれが長身で均整の取れた体格の彼に嫌味なほど似合っている。  友永慧は今最も売れている俳優の一人だろう。テレビ、映画、雑誌、街頭広告、WEB、あらゆるメディアにおいて彼の整った彫りの深い顔を見ない日はない。私生活を守るために普段は敢えて地味で目立たない格好を好むタレントも多い中、友永はプライヴェートでもその並外れて優れた容姿の露出を遠慮する気は全くないらしい。目立つことを承知でこの格好だ。     
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