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友永は持ち前の愛嬌と人懐っこさで、撮影が始まる前には既に共演者やスタッフと親しくなっていた。特にもう一人の主演である里見椿生はかなり友永のことを気に入ったらしく、友永はかわいがられた。
ただ、スタッフの中に一人だけ友永に打ち解けない人物がいた。監督の神田譲だ。神田の噂は対面する前からいろいろ聞いていたが、噂通り不愛想で、口数が少なく、目ばかりぎょろぎょろしていて、何を考えているのか分からない男だった。新進気鋭の天才という触れ込みで、年齢も若いと聞いていたが、友永には三〇代半ばくらいに見えた。映画監督としては若い方だということか。友永は他の共演者やスタッフにそうしたように、神田とも距離を縮めるべくいろいろとアプローチを試みたが、無視されるか睨まれるかで終わった。だが神田の反応は誰に対してもさして変わらなかったので、友永は、神田を”変人枠”にカテゴライズして、神田のそういった態度についてあまり気にしないことにした。
だから、初の主演、初の映画、脇はベテランばかりという、新人俳優なら畏縮するような状況にも、友永は全く気負わずにいた。いつも通り、うまくいくだろうと思っていたからだ。いつも通り、これまで通り。
ところが、撮影が始まると、友永のその楽観的な予断は大きく裏切られることになった。
友永のクランクイン、リハーサル一回目でカットが掛かった後に神田が友永に言った。
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