一章

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 十五回目、神田は「もう一度」と言った。友永は十四回目と同じ演技をしたが、途中で集中力が緩んだことに気付いた。神田は当然NGを出し、「もう一度」と言った。ほんの一瞬の手抜かりも神田は見逃さない。  結局、神田が漸くカメラを回すよう指示したのは二十回目、そのカットの本番テイクはそれ一回きりだった。  OKの声を聴くと、友永は思わずその場にへたり込んだ。やっと一シーン、これで。 「やりゃあ出来るじゃねえか」  顔を上げると、神田がニヤニヤと皮肉な笑みを浮かべていた。  友永はその顔を思い切り睨んでやったが、神田は全く動じず、次のシーンの指示を始めた。次も友永のカットが続く。  その日の撮影は押しに押して、友永が上がったときは、予定時間を四時間も超過していた。屋内撮影所でのセット撮影だから、昼も夜も関係ない。友永は上がったが、他のキャストはまだ撮影があるらしい。     
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