一章

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「ええ、知ってますよ。俺もその台詞、医者の役演った時何度も言ったんで」  各務は老眼鏡のブリッジを軽く指で押さえると、改まった様子で友永を真っ直ぐ見据えた。 「……君が和巳君の病気に根気よく付き合ってくれたことには私も感謝しているし、今も心配してくれているのは解っています。  でも、もう君が彼を支える時期は過ぎています。彼はもう一人で立っていられるし、一人で歩いて行かなきゃいけない。  私が話すことが出来るのは、それだけです」  各務という医者は普段から物腰が柔らかく、柔和な顔立ちも相まって一見押しに弱そうに見えるが、自分の職務に対してはあくまで誠実である。友永もこれまで何度も各務と似たようなやり取りを繰り返しているからそれはよく知っている。また、そういう医師が真鳥の主治医で良かったとも思う。しかし、 「……世間話程度でいいんですよ。あいつ良くなったんですよね?」     
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