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「離婚? なんで? いつから、そんな…」
唖然とする僕のリアクションは、妻にとっては想定内なのだろう。
テーブルの上の封筒から取り出された『離婚届』の記入欄は、すでに埋められており、あとは、僕のサインと判子を突くだけになっていた。
「本気、なのか? 理由はなんだ?」
困惑する僕に向かって、妻はやっと人間らしい表情を浮かべた。
「あなたと結婚して、すぐに理恵子が生まれて。
この20年間、パートのおばちゃんやりながら家族を支えてきたつもり。
でもね、あの子が大きくなるにつれて、私の存在なんて…どうでもいいような気がしてきて。
あなたとだって、もう何年してないかしらね……
私の人生これで終わっちゃうの? って……、そればっかり考えるようになって。
その頃からかな、宝くじを買うようになったのは。
毎年10枚。もし高額当選したら、離婚して新しい人生を送ろう、って自分に賭けていたの。
今の、そこそこの生活に流されている自分をどうにかしたいのに、踏み切れない自分にきっかけが欲しくて。
だからこの1億円は、今まで頑張ってきた私へのお年玉だ、って思うの」
清々しい顏で語る妻の話を聞きながら、僕は足元から冷え冷えとした気持ちが湧き上がってくるのがわかった。
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