午前0時のマーメイド

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東京は住むには向いていないと、結婚式を挙げた後すぐに引越しを決めた。 元々神社仏閣が好きなヤマトさんは、奈良に住もうと決めると、驚くほどの行動力でひっそりとした小さな町の古民家を購入していた。 そんな小さな町で、私は近くの奥様方や子供達にピアノを教えている。 ソロで活動を続けているコウさんの曲を作ったり、たまにツアーに呼ばれてはバックバンドのメンバーとして演奏をする事もあった。 ヤマトさんは社長に泣きつかれ、大阪にある事務所の支社で研修生の子達にダンスのレッスンをしていた。 「匂坂や四宮みたいなのがいっぱいいる」 どうやらよく話す関西人に当てられたのか、初日を終えて帰ってきた時のヤマトさんの疲れ具合が面白かった。 関西支社の子達にしてみれば、雲の上の存在だったヤマトさんに直接指導してもらえるなんて夢のような事らしく、研修生の応募者も前年度から鰻登りになったらしい。 「下手したら本社より人気あるかもね」 結構な遠距離をものともせず、しょっちゅうやって来るコウさんが冗談交じりに話していた。
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