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「そう取って頂いて構いませんよ」
まるで相手にしていない。そういう作られた笑みを向けられて、リディオは興味が失せたように手を引っ込めた。
「本日は、雅をご指名ですね。お部屋で過ごされますか?」
「あぁ、そうしてくれ」
「畏まりました。それでは、こちらへ」
そう言って前を歩く藤宮の後に続き二階へと上がっていく。上から見ると、よりこの館の華やかさが分かった。
「凝ったもんだな」
「有り難うございます。ですが、リディオ様は客船のオーナーをなさっておいででしょ? それは豪華な内装ではございませんか?」
「まぁな」
リディオは豪華客船のオーナーをしている。世界各国を行く客船なんてのは金を持っている人間が楽しむもの。料理、接客は当然のこと、内装まで完璧にしてこそなのだ。
「こちらです」
藤宮が案内したのは、何の変哲もない扉の前。そこに立ったリディオはノックをして、ドアを開けた。
途端、表の内装とはまったく違う空間に流石に飲まれた。
日本家屋の土間と同じ、靴を脱いで上がるその部屋は入口から室内が見渡せないように衝立がある。
畳敷きの室内はまるで遊郭のようだ。格子のような襖の窓に、月をイメージしただろう飾り窓だけは桜の障子紙が使われている。
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