35人が本棚に入れています
本棚に追加
「よろしければ、こちらへお越しくださいませ」
「おう、悪いな」
座った雅の隣りに腰を下ろしたリディオにお猪口を持たせ、雅はそれに酒を注ぐ。それを一気に煽ったリディオを見て、雅は着物の袖で口元を隠して微笑んだ。
「お酒、お強いのですね」
「まぁな。ほれ」
「では、頂きます」
銚子を持って合図すると、雅もお猪口を持つ。それに酒を注げば、薄い唇が透明な日本酒をスッと飲み干していく。
「お前もいける口だな」
「そうでもございませんよ。直ぐに赤くなってしまって、恥ずかしいくらいです」
「いいねぇ、色気がある」
雅の肌が上気して色づくのを想像し、リディオはニヤリと笑みを深めた。
「リディオ様は船に乗っておいでなのですよね?」
酌をしながら、雅はやんわりと問いかけてくる。それに片眉を上げたリディオは頷いた。
「あぁ、そうだ」
「色々な国を巡ってこられたのでしょう?」
「あぁ」
「楽しそうですね」
何気ないその会話に、リディオは雅を見た。そしてふと、思った事を口にした。
「お前は旅行が好きか」
「え? 嫌いではないと思いますが」
「思いますが?」
「あの、あまり経験が」
「その年でか? 海外旅行は」
「いえ、経験はありません」
最初のコメントを投稿しよう!