35人が本棚に入れています
本棚に追加
途端黒い双眸に困惑を見せる雅を見て、リディオは深く溜息をつき、一気に杯の酒をあおった。
「つまんない人生送ってるな」
「え?」
「羨ましいだの言ってるなら、経験してみればいいんじゃないのか?」
ずいっと身を寄せれば、雅は驚いたように座ったまま引く。顎を捕らえ、黒い瞳を覗き込み、リディオは笑みを見せた。
「連れて行こうか」
「あの、どこに…」
「広い世界、見てみたいんだろ? 俺の側にいれば見せてやるぜ」
リディオの紫色の瞳を見つめながら、雅は目を丸くする。だが、それは直ぐに諦めを含む笑みに変わった。
「私はこの世界だけで生きておりますので、そのような世界は…」
「そう言って、自分に枷をしてるのは自分自身だって気付いてるだろ」
「…そうだとしても、私は…」
俯き、傍らの畳を見つめる雅を見るリディオは、小さな声で「籠の鳥だな」と呟いた。
「あぁ、やめやめ。そういう辛気くさいのはやめだ」
軽く頭をかいて雅の杯に酒を注いだリディオは、それを雅へと勧めた。
「一夜の楽しみだ、それ以上は言わん。お前の人生はお前のもんだ、俺は首をつっこまない」
「リディオ様…」
「それと、そのリディオ様ってのも止めてくれ、調子が狂う。リディでいい」
「リディ?」
細い首を傾げる雅に、リディオは嬉しそうに男らしく笑い頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!