【第二回】人魔の抗争盛り上がり、儒者は抑止に暗躍す

2/8
前へ
/16ページ
次へ
 異次元についての知識も感覚も体験も乏しい地球人類にとって、これは計画された大規模な「神隠し」であり、その対象になった者にとってはいきなり「迷子」になったとしか言い様がないものでした。異次元送りとは、迷い込んだら最後、今どこにいるかも分からず、もちろん脱出方法も見つからず、死ぬまでさまよい続けるしかない、という過酷な運命を背負う事を意味しました。  人類を、ひと思いに葬り去るには、魔の怨恨と憎悪の念は余りにも深く大きなものだったのです。しかも、その為の罠は突然に扉の姿でターゲットの目の前に現れ、静かに連れ去ってしまうのです。   扉の向こうに見えるもの。人をいざなう妖しさは、   絶える事なく、魂に甘いささやき投げかける。   今また独り、迷いびと。扉をくぐって歩き出す。   扉の向こうで待っている。人を苛む哀しさは、   耐える事なく魂に苦いつぶやき投げかける。  作戦が発動して六百と二十八年。地球人類に有効な対抗策はなく、地球人類は天才と呼ばれた俊賢を失い続け、その数実に数千万以上にまで達しました。生息次元を問わず、異種族の多くと魔の者たちは、   ホントに才があるならはなにゆえ戻って来ないのか   所詮は弱き者故に、何の役にも立ちはせぬ と心の中ではやしたてる有り様。  当然の事ながらそれまで破竹の勢いであった地球の発展は、すっかり停滞してしまいました。愚鈍がいくら沢山いたところで、時代を動かす程の力にはならない見本の様なものです。  しかも、魔の打った手は、単に賢者を異次元に放り込むだけでなく、彼らの記憶を写し撮り、今まで地球人類の切り札でもあった科学技術の真髄を再現するに至ったのでした。記憶が読めれば真似出来るものなのかどうかはともかく、相手は元々超自然の力を持つ精霊なればこそ、理屈抜きで何でもありだったとしても不思議ではありません。魔とそれに与する軍団は、宇宙各地であからさまに地球人類を襲う様になりました。相次ぐ勝利の報を得て、安堵の思いを隠せないのは他の精霊と異種族たち。地球人類の勢力圏の内外問わず、彼らの安堵と優越感は、次第に高まっていったのです。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加