【第二回】人魔の抗争盛り上がり、儒者は抑止に暗躍す

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 歴史上では夥しい数の優れた人材がこつ然と消える事件が起こっていて、今目の前に当代随一の天才がいる。これを護衛する栄誉に浴し、二入のエイジェントは燃えていました。  ミレは相棒に問いかけます。  「リナ、用意はいい?」  「うん、問題なしっと。こっちはいつでもOK」  相棒からの返事に満足そうに頷くミレ。  その様子をちらりともせず黙ってその脇を通り過ぎたのが今回の護衛対象であるサラでした。  彼女は幼い頃から大人たちに囲まれ、陰に本音を隠しつつ表面を取り繕い、上っ面だけの笑顔、猫なで声、親切を装いつつ近づいてくる人間のダークな部分を見せられ続けてきたので、当然の結果ながら、彼女は他人に関心を持だず、出来るだけ関わらずに済まそうとする人物へと育ちました。  身辺警護の2人が、まるでいないかのように振る舞うのも彼女にしてみればいつもの事なのです。二人のSPも慣れたもので、余計な言葉はかけず、それでいて片時も目をそらさないで警備を続行します。  実際、サラの赴任は何の問題もなく行われ、移動も拠点準備も何ら滞りなく完了しました。一刻も早く根城を作り、自分の仕事に没頭する。サラにとってはそれからが何より愉しいひと時なのでした。  それというのも、彼女は機材の発明、開発やマニュアルや指示書の作成をするのが大好きで、会議や現場の指揮もこなしますが、人に応対するのは嫌い、出来ないとか苦手とかではなく「嫌い」で、機器の説明や手順も専門の指導者のみを対象に行い、個々の担当者にはそのリーダーが指導する、という方式をとっており、直接現場に出る事はほとんどありませんでした。  それより更なる新技術の研究、開発に専念する方が効率的だからです。また、組織やチームは個々がそれぞれ自分の役割や機能を認識し、それを完遂していけば人間関係、即ち信頼関係やら仲間意識やらましてや親睦やらは不必要だ、と考えていました。なので、ことさら他人と言葉を交わす事も無く、すべては最短時間で進められていったのです。  フロンティアベースと呼ばれたこの開発基地では、気象観測や資源調査をはじめとする自然環境の把握、栽培場や各種実験場の運営管理など、これからこの星を開発するための中枢となる機関と施設が集められていました。
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