【第二回】人魔の抗争盛り上がり、儒者は抑止に暗躍す

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 さて、少し時間を戻します。サラの研究室に、彼女が到着する数時間ほど前に異次元の壁を通って潜入した者がありました。言わずと知れた「魔」の工作員、フェルム・ラプトルというカルラムという小国出身の魔族でありました。そこには惑星全体を統べる王家があり、種族の別なく誰もが平穏に暮らしておりました。そこに突然地球艦隊が押しかけ、その強大な軍事力を背景に、王家を潰し、人類第一主義を蔓延させて異種族を隷属化させた新体制を作ったのがほんの数ヶ月前のこと。情報部で諜報員として活躍していた彼は、亡国の際にからくも母星から脱出し、魔に身を寄せて報復の機会を伺っていたのでした。彼にとっては地球人類の要人襲撃という、またとないチャンスが巡ってきたといえます。  フェルムは部下2名を連れて、ターゲットの確認と、どん な成果を上げ得る人物なのか見極めるためにラボ施設に潜入し、次元に穴をあけて、そこに潜んでおりますと、丁度良い具合にサラが研究室に入ってきたのに目をとめました。  シルバーグレーの長くストレートな髪。少し緑がかった淡いブルーの眼。研究室用の作業衣に身を包み、体つきを隠しながらも整った顔立ちとスラリと伸びた手脚もあいまって十分に存在感を主張していました。 とはいえ、魔族の彼から見たら異種族の彼女を別段どうとも思う事はありません。彼にしてみれば、   潜む間隙、伺う機会   狙う人物すぐそこに という状況なのにまだ手を出す事が許されていない。こんな理不尽な事はなかったことでしょう。  『あんな奴、何故さっさと抹殺してしまわないのか、上も何を考えているのやら。。。』 と、彼は思うだけでした。結果的にはそれが彼の寿命を延ばしていたのですが、神ならぬ身の本人には知る由もない事です。彼はその後もしばらくサラと彼女のチームの活動を観察し続けました。種族のるつぼであったカルラムにいたお陰で人類の個体ごとの見分けがつく彼ではありました。もし地元出身者であれば、もともと人類がいなかった星なだけに、個々の見分けがつかず、ターゲットに絞った細かな観察は出来なかったでしょう。私たちが虫や魚などの生き物を見て、全部同じに見えるようなもの。ただ、人類であっても、サラのように他人の識別がほぼ出来ない者もいます。彼女にとって、人類とは、自分に関わりがあるか、ないかの二種類しかいないのですから。
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