【序】

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 決定打をくり出せないままずるずると、またも時間を費やしている間にも人類は、持って生まれた悪知恵と数の多さに加えて、人類発祥以来こつこつと蓄積し続けた科学の発展により、精霊といえども無視出来ない脅威となったのであります。  追い詰められた主戦派の精霊たちは今までと異質な存在に変貌し、凶悪な力を大規模に振るう様になりました。人はこれを「魔」と呼んで、非常に恐れはしましたが、やがて人の中からも「聖」なる力を持つ者が登場するに至りました。「聖」は、度々「魔」を制し、撃退する様になりました。また、大多数の精霊は人と争う事を好まず、人との接触を避けるか、平和に共存する事を選んだので、「魔」の勢力範囲が拡大する事はありませんでした。もっとも、縮小する事もありませんでした。後世、巷では   さても不思議な拮抗に両当事者は当惑し、   ともに出せない決定打。まだまだ続く腐れ縁。 などと歌われる様になったのは、また別の話。ともあれこうして「魔」と「人類」と「精霊」の、三者それぞれ思惑を秘めつつも膠着状態が成立し、しばらく続く事に相成りました。  さて、どこの世界にも熱狂的な原理主義者はいるもので、最弱無害な生き物から、宇宙の覇者へと成り上がった人類は、といっても思っているのは当人たちだけですが、人類こそが数ある知的生命体の頂点に立つべきであると信じる様になりました。さらに、さらに、進出先の星々で邂逅した異種族を、科学と数で圧倒し、隷属化させていきました。  人類に対抗し得る唯一の存在であった精霊族の大半が、争いを避けて身を隠す現状では、他種族は人類に屈服する他なく、宇宙各地で人類の横暴専横果てしなく、怨嗟は募っていったの です。  増長最高潮の人類。捲土重来を狙う魔。我関せずの精霊。復讐を胸に耐え忍ぶ異種族。宇宙各地を巻き込んで、やがて来るは群雄割拠の騒乱の時代。  話の舞台が整ったところで「迷いびと」序の段、これにて読み切りと致します。
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