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黒服の男が若い二人の男を椅子に縛り付け、その周りを焦らすかの様にゆっくりと歩いている。その黒服の片手には銃が握られているが、二人は平然として笑みを浮かべていた。
「ボスの金を何処に隠したんだ?」
「さぁ……。忘れた」
挑発する態度に苛つき、握っていた銃の台尻で頭を殴った。辺りに血痕が広がるが、男は容赦なく額に銃口を突き付ける。
「おい! 兄貴が殺されたくなけりゃ、さっさと吐け!」
「……ごめん! 僕も忘れた!」
「?! てめぇら……死にてぇらしいな……」
「どうせ殺すつもりじゃないか。それに、いつかこうなることを覚悟してたんだ。恐れなんて今さらないよ」
その言葉に偽りがないことは、真っ直ぐ黒服の男を見る目でわかった。
その覚悟に怒りは鎮まり、銃を降ろして再び歩き始める。
「ヒーローに憧れたクソガキが、裏社会の人間から金を盗んでは貧しい人間に与えている……。命まで賭けて何がしてぇんだ?」
金の在りかを聞き出したいが、男は一先ず話題を変えた。
「この街を救う」
殴られた痛みで表情は歪むも、どこか奥の底で微笑んでいるようにも見える。
「嗤わせる。まぁ、この街のボスも含め、他にも何十人という被害者がいるんだ。どれだけの金があるのか想像も出来ねぇが、金を与えたにしろまだ山ほど持ってるんだろ?」
「お前もその金を持って逃げようとしてるのか?」
「馬鹿言うんじゃねぇ……。この街のボスの金に手を出した奴は生きていられねぇんだ。そんな死にたがり、お前らぐらいだ」
黒服の男は想像したのか、額から水滴が流れていた。
「見棄てられたこの街は所有者がいない。いくら積もうが相手がいねぇんじゃ取引きにもなりゃしねぇ。いったい、どう救おうってんだ?」
「今は無理だ。だから、託すのさ『未来』に」
「未来だぁ?」
またも挑発されていると感じた黒服の男は、再び銃口を向けるが、男は冷静に「焦るなよ」と、その行為を抑制した。
「教えてやるよ。金の在りかを」
意地でも答えようとしなかった男の発言に耳を疑った。
「どういう風の吹き回しだ?」
「そろそろいいかなと思ってな」
不信感を抱く表情を前に、男は淡々と言葉を紡ぎ出した。
「金はこの街の墓場の何処かに、死体と一緒になって埋まってる」
「墓場? てめぇら、俺が掘り出してる間に何か企てる気だろ。見え透いた嘘は…………。まさか……」
鳥肌が立つほどの緊張感が押し寄せ、引き金を引くことを躊躇った。
「それが本当ならこの引き金を引かれた方がまだまともに死ねたぞ」
「大丈夫。お前に殺されはしない」
「あぁ?! どういう意味ーー?!」
男の態度と発言がやっと一つに繋がった瞬間に、最後の悪足掻きで出口へと駆け出した。
「兄貴……大丈夫だよね?」
「あぁ。未来に賭けようぜ」
「ありがとう。楽しかったよ」
「……俺もだ」
急激な熱さに襲われ、辺りは眩い光に包まれた。
「クソ野郎がぁーー!!」
爆音が空に響いて、黒服の男の怒号は掻き消され、瓦礫が宙に舞う。
そこにあったはずの家は、跡形もなく消え去った。
何もかも……
──ただ一人を除いては──
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