序章 伝記開放

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序章 伝記開放

 西暦10XX年。年の瀬の、平安京。   (みやこ)の夜は、不気味な暗雲に包まれていた。  足元を照らす月明かりもない、漆黒の闇。静まり返った真夜中の大通りに、足音が響く。  ざしり、ざしり。  砂利を擦る、草履の音。  こんな闇の濃い夜に、外を歩き回る者は、(たれ)か。  とある平民が好奇心に駆られ、松明を手に通りへ出た。  人気のない、通りの様子を伺う。突然、平民の眼前に、恐ろしい姿が立ち塞がった。  みすぼらしい着物を纏った人の骸骨が、列を成して歩いてくる。  ぼんやりと青白い光を放つその姿は、とてもこの世のものとは思えない。  餓えで死んだ下人が、悪霊となって迷い続けているのだろうか。  行列が前進する度に、からり、からりと骨がぶつかりあう音が聞こえた。  その音が、まるで「苦しい、ひもじい」と訴えかけている気がした。  平民は恐怖に足が(すく)み、動けなくなった。  膝が、がくがくと震える。寒さも相俟って、気付かぬ間に失禁していた。  立ち尽くす平民の姿を、骸骨たちが捉えた。  ざしり、ざしり。  足音が揃って、歩み寄る。  骸骨たちは、歯をガチガチと鳴らした。笑い声を上げているのかと思えた。     
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