第一章 夏姫覚醒

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第一章 夏姫覚醒

一  西暦二〇XX年、三月末日。日本、愛知県名古屋市。  水無月(みなづき) (えのき)は、十二歳。この春、小学校を卒業したばかりだ。  数日後には中学校への入学を控え、新しい生活へ向けて、胸を(おど)らせていた。  夕刻。友人とたっぷり遊んで自宅へ戻った榎は、玄関に積み上げられた大量の段ボール箱に出迎えられた。  榎の家は不動産業を営んでいて、自宅と共に事務所も兼ねていた。商売も上々で、近隣の住宅と比べてもかなり広い土地に、大きな家を構えていた。  玄関も、それなりに広い。なのに、今は謎の段ボール箱に埋め尽くされて、物置かと思えるほど狭かった。 「ただいまー。何、この山。誰かいないの? おかあさーん!」  家の中に向かって大声を張り上げた。返事はない。榎はピラミッドの如く高々と積まれた段ボールに、手を掛けてみた。  箱には中身がぎっしり詰まっているらしく、どっしりと安定していた。踏みつけても大丈夫だなと確認し、榎は箱の山をよじ登り始めた。  身軽な榎は、アスレチックを楽しむ気分で、段ボールの山を、ひょいひょいと登っていった。     
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