第一章 夏姫覚醒

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「ヘヘヘっ、てっぺんとうちゃーく! うわー、家の中を高いところから見るって面白いな」  ものの数分で頂上に到達し、初めて見る眺めを楽しんでいた榎だった。ところが、段ボールの上は不安定で、バランスをとるのが難しい。ちょっと気を抜いたせいで、榎の足元は一気に崩れてしまった。  悲鳴と共に、榎は段ボールの山と共に落ち、箱の下敷きになった。  激しい音が止むと、家の奥からパタパタとスリッパの足音が駆け寄ってきた。 「あららー、大変。さっき、榎の声が聞こえた気がしたけど?」  榎の母親、水無月 (こずえ)の声が聞こえた。榎は助けを求めるべく必死で声を出したつもりだが、背中が圧迫されて、低いサイレンみたいな声しか出せなかった。 「お母さん。榎姉ちゃん、埋まってるよー」  続いて、小学二年生の榎の弟、(かえで)の声が聞こえた。榎の悲痛な叫びを、聞き取ってくれたらしい。楓の助け舟によって、梢は榎の居所を察知。段ボールの山を積み直し、救出してくれた。  無事に助けられて、ようやく榎は家の中へ入れた。気付けに暖かい茶を飲みながら、なぜ段ボールの下敷きになったのか、経緯を母に話した。  梢は呆れて息をついた。頭痛がしたらしく、額に指を当てていた。     
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