27人が本棚に入れています
本棚に追加
「食べ物を見つけた、餓えから救われる」と、喜んでいるみたいだった。
骨を軋ませ、音を立てながら、腕を伸ばしてくる。
殺される。
必然的に、最期を悟った。
その時。耳元で、人の囁く声がした。
「死にたくなければ、動いてはいけないよ」
直後、平民の視界に広がったものは、色鮮やかな着物の乱舞。
一生掛かっても、お目にかかれないだろう、豪華な貴族の装束が、松明の明かりに翻った。
目の前に現れたその人は、美しき姫君だった。
頭上で結い上げられた長い黒髪が腰まで伸びて、馬の尾の如く、しなやかに揺れ動いた。
姫君の手には、白銀の剣が握りしめられている。剣のまっすぐな刃は、松明の炎に照らされながらも冷ややかで、ゆらめく水面にも似た激しさを漂わせた。
剣の輝きに恐れ慄いたか、骸骨たちは怯んだ。
一気に、周囲の空気が変化した。
姫君は、華麗に地面を蹴った。まるで舞でも踊るかの如く、軽快で清楚な動きだ。
踝まで見える、丈の短い袴から、白い素足が覗く。
姫君が一回転すると、激しい旋風が周囲を取り巻いた。
風は上空高くに昇り、京を覆う厚い雲を散らした。
空には、美しい満月。月の白い光に照らされて、姫君の美しい姿が、さらに露となった。
最初のコメントを投稿しよう!