序章 伝記開放

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「食べ物を見つけた、餓えから救われる」と、喜んでいるみたいだった。  骨を軋ませ、音を立てながら、腕を伸ばしてくる。  殺される。  必然的に、最期を悟った。  その時。耳元で、人の囁く声がした。 「死にたくなければ、動いてはいけないよ」  直後、平民の視界に広がったものは、色鮮やかな着物の乱舞。  一生掛かっても、お目にかかれないだろう、豪華な貴族の装束が、松明の明かりに(ひるがえ)った。  目の前に現れたその人は、美しき姫君だった。  頭上で結い上げられた長い黒髪が腰まで伸びて、馬の尾の如く、しなやかに揺れ動いた。  姫君の手には、白銀の剣が握りしめられている。剣のまっすぐな刃は、松明の炎に照らされながらも冷ややかで、ゆらめく水面にも似た激しさを漂わせた。  剣の輝きに恐れ(おのの)いたか、骸骨たちは怯んだ。  一気に、周囲の空気が変化した。  姫君は、華麗に地面を蹴った。まるで舞でも踊るかの如く、軽快で清楚な動きだ。  (くるぶし)まで見える、丈の短い袴から、白い素足が(のぞ)く。  姫君が一回転すると、激しい旋風が周囲を取り巻いた。  風は上空高くに昇り、京を覆う厚い雲を散らした。  空には、美しい満月。月の白い光に照らされて、姫君の美しい姿が、さらに露となった。     
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