第三章 春姫覚醒

1/55
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/744ページ

第三章 春姫覚醒

一  20××年、五月中旬。  京都、とある針葉樹の広がる山麓。  日の暮れかかった夕刻。  陰陽師、夏姫――水無月榎は、白銀に輝く剣を握り締め、一心不乱に振い続けていた。  榎の剣が激しく弧を描くと、草や技を掻き分ける音と共に、甲高い悲鳴が上がった。  悲鳴と共に、頭上高く吹き飛んだものは、たくさんの小さな妖怪たちだった。  蜻蛉(かげろう)の群れのごとく大量に群がる、小さく弱い妖怪たち。俗に、魑魅魍魎(ちみもうりょう)と呼ばれている妖怪たちは、辺りを滑空しながら、榎めがけて体当たりしてきた。榎に飛びつこうとしては、吹き飛ばされて消滅した。  剣で妖怪を薙ぎ払う度に、倒した感覚は腕に伝わってきた。だが、襲ってくる妖怪たちの数は、いっこうに減る気配が無かった。  諦めずに、榎は息を切らしながら、何度も何度も、妖怪を切りつけ続けた。 「おのれ夏姫! しつこく我らの手下に食らいつきおって! 残忍な陰陽師め!」  妖怪たちに榎を倒せと指示を出していた、しゃべる烏の妖怪、八咫烏(やたがらす)八咫(やた)が、焦って怒りを顕にし始めた。  粘った甲斐があり、時間の経過と共に、徐々に妖怪は減ってきていた。     
/744ページ

最初のコメントを投稿しよう!