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第三章 春姫覚醒
一
20××年、五月中旬。
京都、とある針葉樹の広がる山麓。
日の暮れかかった夕刻。
陰陽師、夏姫――水無月榎は、白銀に輝く剣を握り締め、一心不乱に振い続けていた。
榎の剣が激しく弧を描くと、草や技を掻き分ける音と共に、甲高い悲鳴が上がった。
悲鳴と共に、頭上高く吹き飛んだものは、たくさんの小さな妖怪たちだった。
蜻蛉の群れのごとく大量に群がる、小さく弱い妖怪たち。俗に、魑魅魍魎と呼ばれている妖怪たちは、辺りを滑空しながら、榎めがけて体当たりしてきた。榎に飛びつこうとしては、吹き飛ばされて消滅した。
剣で妖怪を薙ぎ払う度に、倒した感覚は腕に伝わってきた。だが、襲ってくる妖怪たちの数は、いっこうに減る気配が無かった。
諦めずに、榎は息を切らしながら、何度も何度も、妖怪を切りつけ続けた。
「おのれ夏姫! しつこく我らの手下に食らいつきおって! 残忍な陰陽師め!」
妖怪たちに榎を倒せと指示を出していた、しゃべる烏の妖怪、八咫烏の八咫が、焦って怒りを顕にし始めた。
粘った甲斐があり、時間の経過と共に、徐々に妖怪は減ってきていた。
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