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第四章 悪鬼邂逅
一
20XX年、六月初期。京都の空を、厚い雨雲が覆っていた。
薄暗い早朝。霧雨が降る山の中で、夏姫――榎は、しっとり濡れた纏め髪を揺らしながら、剣を振るっていた。
相手は、〝あめふらし〟と呼ばれる、その名の通り、雨を降らせる力を持つとされる妖怪だった。同じ場所に居続けると、その地に延々と雨をもたらし、洪水や地滑りの原因を作り出す、危険な存在として、恐れられていた。
本来は気圧の変動に合わせて、各地を転々と移動しながら雨を誘導していく妖怪らしいが、今は長らく、四季が丘町に居座っていた。
妖怪を統べる妖怪――宵月夜によって、召集されているからだった。
宵月夜は相変わらず、巨木の枝の上に腰をかけ、高見の見物を決め込んでいた。側近の烏の妖怪、八咫も、側にいた。
縦に長細い、泥の塊みたいな姿の下等妖怪、あめふらしは、肉体の構造が曖昧で、剣で切りつけても、ほとんど、手応えがなかった。どこが急所なのかも分からず、榎は手当たり次第に攻撃し続けた。
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