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頭の中で決別する事実を認められても、心の奥底で、やはり何かの間違いだったのではないか、今ならまだ引き返せるのではないかと思ってしまう自分がいる。
訂正しよう、僕は何かの感情を抱いていないと言った。
確かに感じないのだが、それはこの別れに対して非情なわけではなく、現実を認めたくないという僕の弱さゆえであった。
だがそんな僕をよそに、杏果は食事中微笑を浮かべていた。
そしてその表情を見るたびに痛感するのだ。
ああ、この人にはかなわないのだと。
僕は杏果と大学2年の時に知り合った。
初めはただ騒がしい人だと思っていた。
多くの友人に囲まれ、外に出るより家にいたほうが好きだった僕とは対照的な人物だった。
だがそんな灯りのような人物にも、影はある。
だからそれを知った時、僕は驚きよりもホッとした。
なぜだかはわからない、だが今だにそれが鮮明に記憶されているあたり、きっと僕にとって特別、いや、ある種衝撃的だったのだろう。
そして僕はその影を引きずり寄せた。
もちろん僕が他人を変えるほど影響力があるとは思っていない。
それでも最初に僕が抱いた杏果の印象とこの共に過ごした年月で築き上げられた印象が、全く違うのだ。
そういう意味では、彼女はもとに戻ったのかもしれない。
僕が彼女にもっと歩み寄っていたら、何かが変わっていただろうか。
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