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僕が彼女に自分の全てをぶつけていたら、この結末も違うものになっていたのだろうか。
今となっては、そんなものどうでもいいのだが。
ふと味噌汁のお椀の中をみる。
人参に小松菜、大根に豆腐、そしてそこには似つかわしくないブロッコリー。
外食で食べるようなワカメと油揚げのインスタントとは違い、具材がたくさん入っているあたり非常に家庭的だ。
箸で汁をかき混ぜ、下に溜まった合わせ味噌の残骸を浮かび上がらせる。
もしこの先僕に真っ当な未来があって、光が照らされる時間がきて、この最後の晩餐を思い出すときがきたら、僕にとってそれはどのような思い出となっているのだろうか。
いつも辛いと言いながら食べていた小松菜が恋しくなるのだろうか。
いつも似つかわしくないと言って嫌ったこのブロッコリーに、ある種ノスタルジアを感じるのだろうか。
「...どうしたの?」
よほど味噌汁と戯れる僕を奇妙に感じたのか、暗黙のルールを破って杏果が声をかけてきた。
その顔には先ほどの微笑はなく、心配そうな表情をしていた。
「ん?いや、なんでもない」
「そっ...ならいいんだけどさ」
そういって僕たちは食事に戻る。
もし僕に今自分が思っていることを全てさらけ出せる勇気があったなら。
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