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500マイルの旅人
別れとは、悲しいものではない。
いつも一緒にいた人と離れるからこそ見えてくるものがある。
前に進むからこそ、出会える新しい人々がいる。
だから僕はこの慣れ親しんだ町の慣れ親しんだ部屋で、妻の杏果とこたつで最後の晩御飯を食べることに、特になんの感情も抱かなかった。
別段最後だからと言って、何か洒落込んだものが出て来たわけでもない。
ご飯に焼き魚に味噌汁、そして少しばかりの煮っころがし。
僕たちの別れにはとてもお似合いだと思ったのは、傲慢か欺瞞か。
そんなことを考えながら、黙々と食事をとっていた。
結婚して早7年、付き合ってから数えると10年、僕たち二人の間には暗黙のルールがあった。
食事の最中は、黙って食べること。
どちらかが言い出したわけでもないし、ましてや言葉にしたルールでもない。
最初の方は気まずく感じる時もあったが、何年も一緒にいればそういう気遣いや遠慮も薄れていく。
よく言えば親しみ、悪く言えば無礼。
だからこのいつもの光景、いつもの雰囲気が、最後になるとはどうしても思えなかった。
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