木馬姫

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 「フューチャー・モンスターズ?」  欅坂清香≪けやきざか さやか≫は市で行われるダンスの大会"ヒューチャー・モンスターズ"の広告を眺めながら、そう呟いた。  ダンス。  それは今年で17歳になる清香にとっては夢だった。 広島県広島市南区で産まれた清香の家は、数年前に起こった土砂災害に飲み込まれ、同時に彼女の脚とダンサーになりたいと言う夢も破壊されたのだ。 家族は親戚のいる呉市に移り住んだが、清香一人だけは呉市の病院でリハビリをしながら療養生活を送る嵌めになった。  「清香ちゃん、ダンス好きぢゃったけん、見学に行ってみんね?」  病室に見舞いに来た同級生の鏑木美弘≪かぶらぎ みひろ≫はベッドの横でそう呟いた。  「ダンス、かぁ」  清香は表情に翳りを見せる。  病室のテレビでダンスの大会があることは知っていた。 やくざが転向したストリートダンスチーム、広島代表のJAKENと山口代表のCHOLが呉駅でダンスバトルをするコマーシャルは広島県では有名だ。それを観る度に、清香はやるせない気持ちになったのを思い出す。  "踊りたい!"  土砂災害さえ起こらなければ、自分はこの舞台でダンスが出来たのに、と。見学ではなく、自分はダンスがしたいのである。  「場所はグリーンアリーナで、時間は19時からなんぢゃが、どうかいね?」  「リハビリの先生に訊いてみるわ」
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