木馬姫

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 入院当初から清香は山内と言うPT(作業療法士)の元でリハビリを週ニ回行っている。 下半身を負傷した清香にとっては、ベッドで座位を維持することも不可能に近く、リハビリは常に恐怖と不安の連続だった。 腰に垂直に体重を落としてバランスをとるのはダンスの基本姿勢で始めた頃に、身につけていたが、それが出来ないことに歯痒さと悔しさも覚えた。 今まで普通に出来ていたことが急に出来なくなったのものだから、その心情は計り知れない。 そんな清香の心理を汲んでか、山内は根気強くリハビリの指導を続け、ようやく車椅子を自走出来るレベルにまでなった。  「いけるようだったら、連絡して。あ、うちから訊けばええんぢゃ」  美弘は一度スマートフォンをデニムのポケットから取り出すがすぐにしまう。 結果をラインで教えて貰いたかったが、ここではケータイ電話やスマートフォンは使用出来ない規則になっているので、口頭で訊くしかないと思ったからだ。  「うん、行かせて貰えるとええね」  「山内先生ならオッケーくれる思うよ。優しいし頼りになるし」  美弘はPTは奇跡を起こす仕事だと山内を見ていて実感していた。それは清香のほうが大きいかも知れないが。 吃音障害の患者が喋れるようになり、コミュニケーションをとれる喜びに笑顔を取り戻す。経管栄養の患者が口から食事出来るようになり、固形物が食べられるレベルになる。勿論、全く立てない患者が立位と歩行が可能になる。そういったケースは少なくない。  ただ、この資格は日本にはない資格だが。 清香も何れは一緒にダンスが出来るようになる。美弘はそう信じたかった。
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