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山内は後原病院2階のリハビリルームで仕事をしている。
リハビリルームには歩行訓練用の平行棒や、吊り下げ型の滑車、寝袋のような形をしたメドマーと言う加圧機に、三段程の階段がフローリングの床に設置され、U字型の歩行器も何台か並んでおり、決まった時間に患者が介護助手とともにリハビリをしにやってくる。
清香もその一人だが。
「欅坂さん、今日はリハビリじゃないけど、どしたんね?」
山内は車椅子でやって来た清香に訊ねた。
親戚宅にいる両親が、デザインや色合いに季節を配慮して買ってきた服を着ている清香は車椅子がなければ普通の女子高生と変わらない。
モコモコしたファーの付いた上着に、可愛らしいピンクのパンツ。その上には寒くないようにと膝掛けが掛けられている。
「山内先生、あのね、グリーンアリーナでダンスの大会があるんぢゃが、行っちゃいけんかね?」
清香は恐る恐る訊ねてみた。
「観に行く、てことかい?」
出場したいと言い出すんじゃないかと、山内は一瞬どきりとしながら訊ね返す。
「勿論」
「踊れるようになるんは、もう少し先ぢゃけんね。観るなら、家族の同伴があれば構わんよ。ここから広島市のグリーンアリーナゆうたらかなりあるけどね」
呉市から広島市までは、電車で約50分はかかり、そこから路面電車に乗り換えて20分はかかってしまう。グリーンアリーナのある本通り付近は、広島市では一番人口が過密なポイント故に山内の心配は尽きない。
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