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「有り難うございます」
清華は車椅子から山内に頭を下げた。
「ご両親が洗濯ものを取りに来ちゃってじゃけ、その時に頼んでみんさい。行く先で事故に遭わんにゃあええね」
交通上の事故もあるが、山内の時代とは変わり、世間は珍しいものを写真や動画に納めようとする人間が増えている。
踊れる喜びを得たい清香に対してそれは、ひとを売り物にする行為で、そう言う人間に清香が遭遇するときっと不快になってしまうのではないか、と山内は考えた。
親ではないにしろ、清香は見せ物ではないのだ。
「お母さんは夕方に来るけん、話してみます」
「気分転換してきんさい」
車椅子を両手で漕ぎながら、病室へ戻っていく清香の背中を眺めながら、山内は入院当初を思い出す。
踊りたい。
本人の口から告げられた要望にも、清香の一番の希望をなくさないで欲しいと言う両親の要望にも驚いたが、言うだけでなく、黙々とリハビリを続ける清香の姿に圧倒された。
神さまが与えた試練にひたすら応えようとする患者は清香が初めてだった。資格取得のためにアメリカ暮らしが長い山内は、キリスト教徒であるので、そう思った。
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