夜蝉

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安い部屋には安いだけの理由がある。 そう知人から言われた時にはあまり気にも止めなかったが、なるほどどうして。 ワンルームの部屋は今では珍しく古びた畳である。 洗面台は無く、台所のシンクが私の洗面台なのだ。 部屋の愚痴を言えばきりがないので、多くは語らないが困ったことに夜中にクーラーが壊れてしまい、私は夏の夜の暑さで目を覚ました。 夜中という時間なのだが、月夜のおかげで真っ暗ということはなかった。 真っ暗なのは自分の心か、と皮肉な口を叩いて立ち上がる。 布団のシーツは汗で湿っていた。 寝起きでぼさぼさの髪の毛を掻きむしりながら私は小さなテーブルの上からタバコとライターをゆっくりと掴み取る。 静かな夜、とはいかなかった。
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