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ベランダに留まっている蝉は、どれどれ人間よ、ひと鳴きしてやるから。と言わんばかりにゆっくりと鳴き出した。
ミン、ミンミン…ゆっくりとゆっくりと。
鳴き声が最大になった時には部屋が揺れ、台所のコンロの上のヤカンが床に鈍い音を立てて落ちた。
その鳴き声に私も立っていられず、耳を押さえながらへなへなと腰を抜かした。
こんなことがあっていいのか。
夜中にこれだけの音を立てて無事に済むと思っているのかこの蝉は。
音に耐性が出来始め、そんなことを思いながら蝉を見返すと蝉はこちらを向いてあからさまに私に向かって鳴いていた。
それはまるで大声で不満を言うように、日頃の鬱憤を晴らすかのように鳴いて鳴いて鳴いて。
そして時間が経つにつれて、私は蝉は鳴いているのではなく泣いてるように感じていた。
泣いて泣いて泣いて。
なぜ七日しか空を飛べないのか。
なぜ七日しか鳴けないのか。
なぜ私の自由はこんなにも短いのか。
泣いて鳴いて泣いて鳴いて、そう感じている私もゆっくりと耳から手を離し鳴き出した。
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