1人が本棚に入れています
本棚に追加
私の声が止むと、蝉もだんだんと声を小さくそしていつしか私の部屋は静かになっていた。
どれくらい騒いでいたのだろう。
時間の感覚がなかった。
無力感、そんな感じに私はなっていたのだ。
対する蝉もゆっくりと方向を変えて飛び去って行った。
私は頬を伝うものを腕で拭って、テーブルのティッシュを雑に何枚もとって鼻をかんだ。
そして疲れたのか、布団に倒れるように眠った。
何が起こったのか今の私には考える余裕もなかったのだ。
ただただ眠りたい。
私は一体夏の夜中に何をどんな声で鳴いたのだろうか。
もしかすると蝉も人もたいして変わらないのだろうか。
ふざけた考えだ。さながら私は人間蝉じゃないか。
すっと目を閉じると睡眠に入るまで時間はかからなかった。
翌朝、目覚まし時計のアラームよりも先に私は目が覚めた。
すぐさまベランダに駆け寄って辺りを見回してみた。
大きな蝉の姿はまるで無く、いつもの早朝の風景が広がっていた。
夏の朝がこれからこようとしている。
なんだ夢だったか…。蝉の…ゆめ…。疑問しか私にはなかった。
しかし、なんとも不思議な夢だった。
昔、蝉をいじめたことあったっけ…。
そんなことを考えながら仕事の用意をしつつ、コーヒーのためにお湯を沸かそうと台所を見るとヤカンが床に転がっていた。
しばらく何も考えられなかった。
ヤカンに少し残っていた水がこぼれて、床に小さな水たまりをつくる。
私は少しにやけてヤカンをコンロに戻すと、大きく背伸びをした。
今日は、少しだけ。
ほんの少しだけ早めに出社してみるか。
いつも憂鬱な気持ちで仕事に向かう足取りが、少しだけ軽くなった。
最初のコメントを投稿しよう!