432人が本棚に入れています
本棚に追加
「申し訳ありません、カール様。オスカル様を庇うのではありませんが、私にとってお相手の方は親しいのです。その方を裏切る事はできません」
皇帝相手にこんな事を言うのは本来は首が飛ぶ。だが、それでも裏切れない部分はある。何よりまだ交際一年も経っていないような二人だ。下手に弄ると拗れてしまうかもしれない。こういう事は静観しなければいけない時期があると、ランバートは思っている。
カーライルは全く気にもしていない顔だった。だが、真剣な目で一つ頷いてはいた。
「なるほど、ファウスト達が気に入る理由の一つは分かったかな。君は誠実で、人を裏切らないんだね」
「それほど立派な志があるわけではありませんが、大事な人が悲しい顔をするのは見ていられないのです」
「優しいんだね。怖くなかったの? 私の言葉に背くような事を言うのは」
「…少しだけ、覚悟はしました。ですが、裏切りに胸を痛めるのも俺には苦痛です。信頼は一度失えば地に落ちてしまいます。たとえ小さなものでも、小骨のように引っかかって苛むので」
エリオットはきっと笑って許してくれるだろうけれど、ランバートにとって「裏切った」という思いそのものが嫌なのだ。誰かを傷つける事を拒むのだ。昔からそうだったから。
最初のコメントを投稿しよう!