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しばし呆然と立ち尽くしていたランバートは、その人が誰かを認識するのにしばしかかった。知らないのではなく、あり得なかったのだ。
ハッとして、思わず膝をついて頭を下げる。けれどそれは、慌てて近づいてきた男の手によって崩されてしまった。
「陛下がいらっしゃるとは知らず、失礼をいたしました」
「止めてよ、ランバート。驚かせたのは悪かったけれど、今は止めて」
やんわりと手が触れて顔を上げるように促される。従って顔は上げたが、膝をつく姿勢は変えない。見れば目の前の人も両膝をつき、気遣わしい様子で触れていた。
「すまない、ランバート。屋敷に着いた時点で言っても良かったんだが、口止めされてしまって」
ランバートの腕を引き上げるようにクラウルの手が伸びる。良いのだろうかと思っていると、目の前の人も柔らかく笑って頷いていた。
「驚かせてご免。ただ、どうしてもプライベートで会ってみたくて無理を言ったのは私なんだ。クラウルは私の我が儘をきいてくれただけだから、どうか責めないでやってくれ」
「そのような事は。あの、陛下…」
「カーライル」
「え?」
にっこりと目の前の人が悪戯っぽい顔をする。玉座に座り凛とした表情の時とは打って変わって、とても温かな笑みだった。
そう、目の前にいる人こそがこの帝国の王。カール四世その人だ。
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