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 電話を切った後、並べた食材を見てため息をついた。  ぶりは、ふた切れしかない。  スマホをポケットにしまい冷蔵庫を見る。ストックがほとんどなかった。  冷凍庫には、いつか昼食で食べようと冷凍しておいたカレーがある。  メニューはなんでもいいと言う辺り、上司ではないのだろう。  野菜室から大根を取り出す。照り焼きを煮付けに変更することにした。後は、カレー風味の野菜炒めなどを足せば、どうにか三人分になる。  食器は、もともと二人分しか持っていなかったが、実家から母親が来たときに追加してあった。そのため、不揃いだった。  準備をしながら、ふと、役割を放棄したくなる。  予定外なだけではない。今まで一度だって、人を招いたことがないのに、あんまりだという気がしてきた。  最初から、断る選択は用意されていなかった気がする。  誠が、そういう無理を言ってきたことはない。よほどのことなのだと、思い直す。
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