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 顔をあげる。  男性がフードを脱いで、頭を軽く横に振った。マスク手をかけ、外した。  大輝だ。  確かに、大輝だ。  大輝は、横目で私を見ただけで、前を通り過ぎていった。  かいだことのない香りに目眩を起こす。  目を閉じ、呼吸を整える。  今日、観た……。今までに観てきた。大輝の画像が脳裏に次々と映し出される。  私は、その場に座り込んだ。  混乱しすぎて、動くことができなくなった。  誠が、リビングから出てきた。 「泣いてるの?」  私は慌てて否定した。しかし、私の頬はいつのまにか濡れていた。 「驚きすぎて……」 「ごめん、そうだよな……でも、放っておけなくて……今から、大輝の話を聞くけど、一緒にいられる?」  堪えられる自信はない。それでも、聞かなければいけない気がした。  
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