2059人が本棚に入れています
本棚に追加
やっと乗り越えたはずの、苦しみにすぐに引き戻された。
私の心は、日が暮れても、大輝と待ち合わせていた場所から離れられずに、心も体も凍えたあの日のままだった。
誠が、帰ってくるまで、この部屋にいることにした。
敷き終わった布団の隣に正座をして、ぼんやりと、畳の縁をみつめていた。
引き戸があく気配がして、振り向いた。大輝が立っていた。
「遅いから、どうしたかと思った」
声は、本当に変わっていない。
うまく誤魔化すための言葉は何一つ思いつかなかった。
「ちょっと、驚きすぎてて、どうしていいかわからなくて」
「悪かったな。誠一人だと思ってたんだ。ここ数年は、連絡してなかったから」
数年前まで、二人が連絡を取り合っていたなんて、今まで知らなかった。
「誠も、もうすぐ帰ってくると思うの。お風呂の用意をするね」
私は、とにかく大輝から離れたかった。
「綾音……、俺が嫌なら、他をあたるから」
大輝から見詰められる。私が追い出して、大輝にもしもの事があったらと思うと、とても、出て行って欲しいとは言えない。
「嫌じゃない……本当に驚いてるだけ」
私は、大輝の横を通り過ぎて、バスルームへ向かった。
脱衣所の扉を閉じた途端大きく息を吐く。
さっき、すれ違う瞬間に、大輝の熱と香りを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!