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 誠は、長い間、ただそばにいてくれた。数年が経ち誠と初めて体を重ねた。私は、大輝との違いに戸惑った。誠は、壊れ物に触るようにして私を抱く。誠の転勤を機に籍をいれた後も、それは変わらない。  ここのところ、誠の仕事が忙しく、毎晩遅くなる。排卵日にはどうにかしてもらっている。それでもなかなか妊娠できなかった。  子供ができれば、誠との関係を決定づけられる気がした。誠が信じられないわけではない。どちらかというと、私の方に現実感がないのだ。  出席日数ギリギリで高校を卒業した後、家事手伝いという名の引きこもりになった。誠が連れ出してくれなければ、どこへも行かない生活をしていた。  地元を離れたおかげで、少しずつ、一人で外へ出られるようになった。  ここには大輝との思い出はない。そう思って安心していたのに、ふと入った書店で、雑誌の表紙を飾る大輝を目にしてしまった。  そこからだ。誠に隠れて、大輝の出ているドラマや映画を観るようになったのは。  大輝は、変わってしまっていた。表情も、話し方も、何もかもが。 「綾音」と優しく呼んでくれていたことがまるで、私の作り出した幻想だったと思えるくらいに。
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