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 そろそろ誠を起こす時間だ。  寝室にもどり、掛け布団の上からそっと肩に触れる。誠は、いつもゆっくりと目を開ける。 「綾音、おはよう」  穏やかな笑みを浮かべる。これを幸せだと思わなければ、罰が当たる。  誠が寝癖を直しに行っている間に、私はYシャツとネクタイを選ぶ。今日は、薄く緑がかったYシャツと、茶系のネクタイを合わせた。  誠は、基本的に口数が少ない。結婚した当初は、私が話題をひねり出して話しかけていた。誠は、相づちを打ってはくれるが、なかなか会話は続かなかった。誠は、常に、黙って私を眺めている。昔からそうなのだ。私は、結婚したからといって、無理にコミュニケーションをとる必要はないのだと、最近では思っている。ただ、今朝は伝えなければならないことがあった。  誠は、身支度を終え、食卓についた。今朝は、焼き鮭と、えのきの味噌汁、ヒジキの煮物に、菜の花の和え物だ。誠は、必ず味噌汁から箸をつける。  向かい合って、朝食をとりながら、言い出すタイミングを見計らっていた。誠が、箸を置き、湯飲みに手を伸ばしたところで、名前を呼んだ。 「今日は、早く帰って来られそう?」  誠は、少し考えた後で「近いの?」と言った。  私は、頷く。 「わかった。早く帰るようにする」  この一年、私たちは、子作りのためだけに交わる。
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