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 今のうちにできる限り、めぼしい山草を採っておかなければ。  一度、雪がちらついたら最後、山肌が雪に覆い尽くされるのは、あっという間だ。  わたしが手にしているのは、樹皮を太く切って編み上げた古い籠。  幼いころに亡くなったお母さまのものだ。  お母さまがお持ちだった頃から、すでに十分に古びたものであったから、ひょっとすると、おばあさまか、ひいおばあさまが編んだものなのかもしれない。  籠の中には小刀。  柄はなく、刀身にただ古布を巻きつけてあるだけの無鞘のものだ。 「ひいさま、どこにお出ましになられるので?」  厨房の物置部屋から、ばあやが飛び出してくる。  冬用の干した果実の整頓をしていたのだろう。 「おひとりではなりませんよ。そら、セスをお供につけましょう」  言ってばあやは、厨房の内へと向かってセスの名を呼ばわった。  そこは何事か、ひどく取り込んでいる気配がする。  セスがばあやに返事をしたのは、呼ばれた後、随分と経ってからだった。  この時期、城の皆には冬支度として、やるべきことが幾らでもある。  そして、それを手伝うことは、わたしには許されていない。  だからせめて、皆の邪魔はしたくなかった。  わたしは、ばあやの肩をそっと指で叩いて振り向かせる。     
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