30人が本棚に入れています
本棚に追加
今のうちにできる限り、めぼしい山草を採っておかなければ。
一度、雪がちらついたら最後、山肌が雪に覆い尽くされるのは、あっという間だ。
わたしが手にしているのは、樹皮を太く切って編み上げた古い籠。
幼いころに亡くなったお母さまのものだ。
お母さまがお持ちだった頃から、すでに十分に古びたものであったから、ひょっとすると、おばあさまか、ひいおばあさまが編んだものなのかもしれない。
籠の中には小刀。
柄はなく、刀身にただ古布を巻きつけてあるだけの無鞘のものだ。
「ひいさま、どこにお出ましになられるので?」
厨房の物置部屋から、ばあやが飛び出してくる。
冬用の干した果実の整頓をしていたのだろう。
「おひとりではなりませんよ。そら、セスをお供につけましょう」
言ってばあやは、厨房の内へと向かってセスの名を呼ばわった。
そこは何事か、ひどく取り込んでいる気配がする。
セスがばあやに返事をしたのは、呼ばれた後、随分と経ってからだった。
この時期、城の皆には冬支度として、やるべきことが幾らでもある。
そして、それを手伝うことは、わたしには許されていない。
だからせめて、皆の邪魔はしたくなかった。
わたしは、ばあやの肩をそっと指で叩いて振り向かせる。
最初のコメントを投稿しよう!