冬至 III 6

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冬至 III 6

6  「魔法だ」と――  そう言っていた。  《魔法》が成就したのだと。  たしかに、世には《魔法使い》を名乗る者も、そう呼ばれる者も存在はする。  しかしながら、一国の王として、その《魔法》の内実が何であるかを、まるで知らないわけでもない。  そんな私にとっても、あの《魔法》とやらの「からくり」が何であったのか、まるで解らない。  だが、その理由を考えて何になるだろうか。  いまさら、なにも、どうにもなりはしない。  「おにいさま」  父王に舌と喉を焼かれ、失ってしまったはずの声で。  たしかにそう、私を呼んだのだ。  異形と蔑まれてきた私の妹は。  ――あの夜。  その雪のように白い身体に何ひとつまとわぬままに、あれは私の眼前に佇んでいた。  可哀想に、寒いだろう。  今日は太陽が死ぬ日だ。お前のちいさな身体が凍えてしまう。  やさしく抱きしめてやらねば、冷たい頬を温めてやらなければ。  ああ、愛らしい声で、ずっと何を話し続けているのだ、可愛い妹よ?  他愛のないことを、ひどく夢中に。  初めて聞く声。  にもかかわらず、昔から聞き知っていたような気がするお前の声。  懐かしい、ちいさな、やわらかく花びらが震えるような声。  だが、妹よ。  私は疲れていて、ひどく眠いのだ。  お前も、もう眠るがいい。  闇が光を支配する日。  夜は長い。だからともに眠ろう。  しっかりと、抱きしめてやろう。  膚と膚が触れ合う部分から、ぬくもりが、互いに分かちあわれるから。  輝く銀の髪を撫でくすぐって、ちいさな鼻先に口づけを落とそう。  夢中で抱きついてくる細い腕。  か細く甘い声で語り続けるお前の声は、まるで子守唄だ。  なんと心地良いのだろう、沈むように、ひどく眠い。  私は落ちていく。眠りの淵へと。  だから、愛しい妹よ。  お前も今は眠れ。  ずっと抱きしめていてやるから。  こうして、ずっと。
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