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5  わたしが、また少し痩せたようだと、ばあやが顔を顰めた。 「湯治をいたしましょう、ひいさま」  そう言って、盥とたっぷりの湯を、わたしの部屋へと運び入れる。  冬のさなか、貴重な薪を使っての湯あみは、飛び切りの贅沢だ。  沸かした湯を運ぶよう言いつけられた召使のうちの幾人かは、さも不服気にくちもとを歪めていた。  わたしなどがこんな特恵を受けるのは、ふさわしくないと。  きっと、そう思っているのだろう。  湯と薬草で満たされた盥に、わたしは身体を沈める。  部屋にいるのは、ばあやだけ。  昔からそうだ。  わたしは、湯あみを見られたくない。誰にも。  それに女たちだって、わたしの湯あみなど見たくはないはずだ。 「本当に、なんとお綺麗なおぐしなのでしょう、ひいさま」  わたしの髪へと、湯を回しかけながら、ばあやが言う。 「王冠の銀よりもお美しい」 「それに、ひいさまのお目目は夏の空のように蒼くていらっしゃる。なんて大きなお目目、なんて長い睫毛だこと」  わたしは、ばあやを見つめて微笑む。 「ああ、ひいさまのくちびるは、まるで春の苺のようにみずみずしい」  いつもだ。  ばあやは、いつもそう言う。     
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