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わたしが、また少し痩せたようだと、ばあやが顔を顰めた。
「湯治をいたしましょう、ひいさま」
そう言って、盥とたっぷりの湯を、わたしの部屋へと運び入れる。
冬のさなか、貴重な薪を使っての湯あみは、飛び切りの贅沢だ。
沸かした湯を運ぶよう言いつけられた召使のうちの幾人かは、さも不服気にくちもとを歪めていた。
わたしなどがこんな特恵を受けるのは、ふさわしくないと。
きっと、そう思っているのだろう。
湯と薬草で満たされた盥に、わたしは身体を沈める。
部屋にいるのは、ばあやだけ。
昔からそうだ。
わたしは、湯あみを見られたくない。誰にも。
それに女たちだって、わたしの湯あみなど見たくはないはずだ。
「本当に、なんとお綺麗なおぐしなのでしょう、ひいさま」
わたしの髪へと、湯を回しかけながら、ばあやが言う。
「王冠の銀よりもお美しい」
「それに、ひいさまのお目目は夏の空のように蒼くていらっしゃる。なんて大きなお目目、なんて長い睫毛だこと」
わたしは、ばあやを見つめて微笑む。
「ああ、ひいさまのくちびるは、まるで春の苺のようにみずみずしい」
いつもだ。
ばあやは、いつもそう言う。
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