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3  寒い。  そう気が付いて、目が覚める。  眠っていたのは、大した時間ではなかったのだろう。まだかすかに、陽射しが残っている。  雨は降り続いていた。  でも、これ以上待てば、完全に陽が落ちる。  そうなったら、いくらよく知る林とはいえ、明かりもなしに歩いて帰るのは難しい。  わたしはエイルの木の根を濡らさぬよう、籠をケープの内に抱え込み、ゆっくりと立ち上がった。  痛めた方の足をできるだけ使わないようにして、そろそろと雨の中へと歩き出す。  四、五歩程度は、うまくいった。  だが、すぐによろめき、痛めた方の足に身体の重みを掛けてしまう。  痛いと思うよりも先に、わたしは前のめりに転んでいた。  呆然とぬかるみに突っ伏していると、遅れて足首に激痛が走る。  その後は、脈打つように痛みが強まっていった。  ふたたび木陰へと這い戻る気力は、もう湧いてこなかった。  このまま雨に溶けて消えてしまいたいと。  頭の片隅でわたしは、そう願って、ただ、目を閉じる。  雨音に混じって、水が跳ねる音が聞こえた。  その音を、ぼんやりと聞くともなく聞いていたわたしは、突然に誰かに名を呼ばれた。  ぬかるみを駆け寄ってくる足音。     
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