第一話「十年ぶりの再会」

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第一話「十年ぶりの再会」

「「あ、アライグマ」」  アルトのあたしの声に、背後からテノールが重なった。見事に。  思わず足を止めて振り返ろうとしたら、アイドリングストップしていたバスのエンジンがかかる。とたんに少し先に立っていたアライグマが、歩道脇の草むらに飛び込んで消えた。あっという間だった。 「はあ?」  すぐ後ろで、「思いっきり呆れた」といわんばかりのメゾソプラノ。  今度こそ振り返ったら、非難の声をあげた奈々の向こう、今しがたバスを降りたばかりらしい男子と目が合った。  知らない顔、でも見慣れた制服のタイは青。同じ高校の二年生だ。  彼は、まともにあたる傾いた日差しを遮るように手をかざしていたが、 「あれ、もしかして……千幸ちゃん?」  え、なんであたしの名前? 驚いているあたしに、 「千幸ちゃん、だよね。うわ久しぶり。俺のこと覚えてる?」  彼は嬉しそうな声をあげながら、大股であたしに近づいてくる。  誰? 戸惑っていたあたしの前で、奈々が心底驚いたように、声を裏返した。 「やだ優にぃ、バスに乗ってたの! 全然気づかなかった」 「俺も。最後列で爆睡してたからなー。危うく乗り過ごすとこだった」  ――優にぃ? って、まさか……。     
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