0人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
第一話「十年ぶりの再会」
「「あ、アライグマ」」
アルトのあたしの声に、背後からテノールが重なった。見事に。
思わず足を止めて振り返ろうとしたら、アイドリングストップしていたバスのエンジンがかかる。とたんに少し先に立っていたアライグマが、歩道脇の草むらに飛び込んで消えた。あっという間だった。
「はあ?」
すぐ後ろで、「思いっきり呆れた」といわんばかりのメゾソプラノ。
今度こそ振り返ったら、非難の声をあげた奈々の向こう、今しがたバスを降りたばかりらしい男子と目が合った。
知らない顔、でも見慣れた制服のタイは青。同じ高校の二年生だ。
彼は、まともにあたる傾いた日差しを遮るように手をかざしていたが、
「あれ、もしかして……千幸ちゃん?」
え、なんであたしの名前? 驚いているあたしに、
「千幸ちゃん、だよね。うわ久しぶり。俺のこと覚えてる?」
彼は嬉しそうな声をあげながら、大股であたしに近づいてくる。
誰? 戸惑っていたあたしの前で、奈々が心底驚いたように、声を裏返した。
「やだ優にぃ、バスに乗ってたの! 全然気づかなかった」
「俺も。最後列で爆睡してたからなー。危うく乗り過ごすとこだった」
――優にぃ? って、まさか……。
最初のコメントを投稿しよう!