0人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「まさかお兄ちゃん? 足達……優也さん」
「覚えててくれた? 嬉しいなあ。あ、でも今は高瀬なんだ。母親再婚したから」
彼は屈託ない笑顔でサラリと言った。
お兄ちゃんは、奈々の父方の従兄だったはず。アパートの隣に住んでた奈々の家によく遊びに来てて、何度か三人で遊んだ覚えがある。でも。
「ちょうどいいや奈々、おまえんトコ行くとこだったんだ。バスで来るの初めてだから、行けるか自信がなかったんだよね、助かるわー」
「はいはい、ご案内しますよ我が家まで――って今の冗談だよね? 『足達家の神童』だった優にぃが『アライグマ』だ、なんて」
「なんで『だった』って過去形なんだよ。それに、あれはアライグマだって、なあ?」
彼は横目で、あたしに同意を求めてきた。
日に透けて明るく輝くアッシュブラウンの短髪を散らして固めている。第二ボタンまで外したシャツに緩く結んだタイ。ブレザーの袖は手首まで折っていて、青ベースのミサンガが覗いている。ユルいけどタルくない。垢抜けた感じさえする。要するに似合ってた。
だけどあたしの知ってる「お兄ちゃん」の面影は、そこにはない。
最初のコメントを投稿しよう!