第1話 式見優(しきみゆう)は派遣社員

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第1話 式見優(しきみゆう)は派遣社員

「そんな簡単なことだったのか……」  プロジェクターが映し出すグラフに、ポインターをあてながら僕が結論を述べると、製造課長で現場のリーダーでもある鷹栖光世(たかすこうせい)がそうつぶやいた。  鷹栖は僕よりひとつ年下の37才。頭髪にやや? 問題を抱える2児のパパだ。僕が現場中心で仕事をするので必然的に知り合い、いつの間にか仲良くなった男だ。  現場上がりでコスト管理には厳しい男だけに、僕の改善には協力的だった。おかげでずいぶん仕事はやりやすかった。  この製造工場では、週に1回、品質会議が開催される。そこで僕は与えられたテーマに関する調査報告を行った。 「そうです。材料の受入れ検査でこの項目は必須となっています。だから受入れロットごとにデータはそろっていて、みなさんお気づきの通り、そこには異常データは存在しません。だから見過ごされていたのでしょう。ところが、現場ではこれを溶剤で希釈して使っていたのです」  品質会議とは、製造、品証、技術などのスタッフだけが集まって行われる品質問題に特化した会議である。  この工場では、毎週金曜日の午後が品質会議の日となっている。     
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