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工程変更申請書を発行して、関連部署の承認(押印)を貰う必要があるのだ。その承認が終わるまで作業を変えてはならない。それが現場のルールだ。
僕の発言に一番ホッとした顔をしたのが鷹栖だった。現場の人間は概ね文章を書くことが苦手だ。彼も例外ではない。規定類の変更などたかが文章の改訂に過ぎないのだが、製造にはそういうスキルを持った人間は少ない。
その後会場をざっと見渡す。たったひとりの不機嫌な人間を除いて、ほとんどの人が僕の発表には感心してくれたようだ。
他になければ、と僕が言うと、進行役である技術課長が次の発表者に声をかける。これで僕の今週の仕事はおしまいだ。
僕は式見優。38才独身。黒縁メガネがトレードマークだ。派遣社員をやっている。現在は自動車部品の製造工場に勤務中で、名義上の所属は品質管理課だ。
改善や問題解決を専門としている僕は、特定の会社に就職しているわけではない。そして派遣会社とも契約をしていない。個人で企業に自分を売り込み、直接採用されて働くという形をとっている。自分で自分を派遣するという派遣社員だ。
時給は5,000円を最低ラインとしている。そしてそこに成功報酬を乗せてもらう。改善で出した効果に対するインセンティブ契約だ。
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