モノローグ2

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「あぁ、そういうものさ」  守は起き上がると隣の部屋へと進んだ。クローゼットを開け、いつものスーツに袖を通す。先程までいた隣の寝室からは、紅とつつじの話し声が聞こえていた。 「あのね紅ちゃん、今日は小夜子ちゃんとディズニーランド行こうって約束したんだよ!」 「おおそうか。良かったじゃないか、つつじ」  つつじは先程守に話したことと同じ内容を紅に喋っていた。とても、楽しそうに。これから人を殺しに行く人間には、到底見えないだろう。 「紅ちゃんはディズニー行ったことあるの?」 「いや、無いな。妙高サンシャインランドなら行ったことあるぞ」 「みょうこう?」 「ああ、ディズニーランドより凄い。そこではお化け屋敷と言う名の蝋人形博物館があってだな――」  それは最早ただの蝋人形館であってお化け屋敷ではない。恐らくフランケンシュタインなどの蝋人形が置いてあるのだろうけれど、驚かせる気がどこにも無いではないか………ディズニーの、比べるならホーンテッドマンションより凄いなどと嘘知識を妹に授けてくれるな、と守は思った。  ただでさえ、頭が弱いのだから…。  着替えを済ませ、それから、今日は用を成さないであろう仮面を念のために二枚懐に忍ばせて、守はその会話に割って入った。 「準備できたぞ」 「ああ、では行こうか」  紅は不敵な作り笑いを浮かべて先頭に立った。つつじ、守の順に後に続く。  さあ、人殺しの時間だ。  さあ、引き金を引く時が来た。  歪な関係を守るための愚行は、今宵も繰り返される。  外へ出て、守は階段を下りるつつじの背中を見下ろしながら、きっとこの体と、あの顔が僕を離さないのかもしれないな、と考えた。  初めて愛し合ったあの娘とは、人格は似ても似つかないのだから――。 「お兄ちゃん! 置いてっちゃうよー!」  階段を降り切った先で振り向いた妹が、笑顔でそう叫ぶ。  果たして、愛は形だけで成り立つものだろうか? いや、いや、いや…  守は思考を切り替えて、階段を降りはじめた。
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